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仙台高等裁判所 平成11年(行コ)2号 判決 1999年6月23日

山形県鶴岡市みどり町二一番三七号

控訴人

斎藤日出子

右訴訟代理人弁護士

津田晋介

山形県鶴岡市泉町五番七〇号

被控訴人

鶴岡税務署長 高村宗男

右指定代理人

翠川洋

高橋幸一

齋藤正昭

高橋藤人

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  左記課税処分をいずれも取り消す。

(一) 被控訴人が平成七年六月一日付けでした控訴人の平成五年分所得税の更正、加算税の賦課決定処分を、平成七年一〇月二六日付けでした異議決定により分離長期譲渡所得と認定した四二三七万四四二一円に対する一一七八万円の所得税及び過少申告加算税一七四万二〇〇〇円

(二) 被控訴人が平成七年六月一日付けでした控訴人の平成六年分所得税の更正、加算税の賦課決定処分により、配当所得と認定した六七二万一六五二円、雑所得と認定した六万九五四〇円に対する一六一万七七〇〇円の所得税及び過少申告加算税二一万六〇〇〇円

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  本件における当事者の主張は、次の二のとおり付加・訂正するほかは、原判決「事実」中の「第二 当事者の主張」(原判決四頁一行目から二〇頁五行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二1  原判決一二頁一〇行目、末行の「所得税法二六条一項の規定により」を削る。

2  原判決一七頁一行目の次に行を改め次のとおり加える。

「3(一) 本件は、抵当権付き土地等の遺贈がなされ、抵当権者の申し立てた競売によって売却された代金から抵当権者に弁済された残余の競売剰余金が受遺者に交付された事実について、遺贈と競売とは権利取得の原因が異なる別個の処分であるから、相続税のほか、さらに譲渡所得として所得税を課し得るとの見解に基づくものであるところ、このような課税は、遺贈を原因とする相続税と競売剰余金の所得を原因とする所得税とを二重に課税するものであり、違法である。本件においては、抵当権付き土地の遺贈等が課税の原因事実とされるべきであり、同一土地についてなされた競売は単に負担除去のための手続にすぎないから課税の原因事実とされるべきではない。

(二) しかも、かかる課税は、右競売剰余金と同額の預金債権の遺贈を受けたため、遺贈後の競売があり得ない事案と比較し、不公平というべきであるから、公平課税の原則に違背する、不合理、非常識な課税というべきであって、この意味でも違法である。

4 本件における競売剰余金は、相続税における基礎控除額に達しないのであるから、相続税を課されるべきではないし、また、右競売剰余金以外に取得した財産はないのであるから、所得税法九条一項一五号の適用により所得税が課されるべきでもない。

5(一) 仮に本件における課税処分が適法であるとしても、本件競売による売却代金及び利息合計一億三四九〇万七七〇〇円中抵当債権者らに弁済された四九五〇万一三三六円は、万寿閣、及び亡清十郎の債務であり、前者は営業不能となり事実上解散し、後者は死亡しており、これらの債務者に対する求償が不能であるから、所得税法六四条二項の適用により、右四九五〇万一三三六円を譲渡価格から控除して税額が算定されるべきである。したがって、右控除をせずになした本件課税処分は、違法である。

(二) もっとも、本件において、控訴人は、右条項が適用されるために必要な同条三項の手続をとっていないが、これは被控訴人の担当職員が本件は非課税であると数回にわたり言明後、相続税を賦課したため、控訴人が右所得税法所定の手続をとらなかったためであり、同条四項のやむを得ない事情があることが明らかである。したがって、本件において、同条三項の手続がとられていないことは、同条二項を適用するうえで妨げとはならないことが明らかである。」

3  原判決二〇頁五行目の次に行を改め次のとおり加える。

「3 控訴人の主張3について

(一) 遺族の法的効果は、遺言に示された財産についての権利が遺言者の死亡により受遺者に移転することにあり、抵当権の実行としての競売の法的効果は、担保権の実行により目的不動産の所有権を競落人に移転することにあるから、遺贈と競売とは権利取得の原因が異なる別個のものであって、競売による競落代金の取得は課税原因とならず、遺贈のみが課税原因となるわけではない。しかも、そもそも本件においては、控訴人に対し相続税が賦課されたわけではないから、二重課税ではない。

(二) 単に遺贈を受けたに過ぎない場合と遺贈を受けた後競売により競売剰余金を取得した場合とを同列に論ずることはできないから、本件における課税処分を不公平ないし不合理、非常識な課税とはいえない。

4  控訴人の主張4について

控訴人が遺贈を受けた本件土地及び万寿閣に対する出資に関する持分が非課税所得となることは当然であるが、その後の競売により換価された後の競売剰余金が非課税所得となるわけではない。

5  控訴人の主張5について

所得税法六四条二項に定める特例の適用が認められるためには、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨その他大蔵省令で定める事項を記載する必要があるところ(同条三項)、控訴人は平成五年分の確定申告書においてかかる手続をとっておらず、同特例が適用されるための要件を欠いている。また、被控訴人が控訴人に対し相続税を賦課したことなどはないから、いずれにせよ控訴人の主張は失当である。」

第三証拠

本件記録中の原審及び当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求はこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次の二のとおり付加・訂正するほかは、原判決の「理由」(原判決二〇頁九行目から二五頁八行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二1  原判決二二頁四行目の「なお、付言すれば」を「(一) 右に関し」と、同二四頁九行目の「さらに」を「(二) さらに」とそれぞれ改める。

2  原判決二五頁八行目の次に行を改め次のとおり加える。

「(三) また、控訴人は、本件は、遺贈を原因とする相続税と競売剰余金の取得を原因とする所得税とを二重に課税するものであると主張する。

しかし、遺贈の法的効果は、遺言に示された財産についての権利が遺言者の死亡により受遺者に移転することにあり、抵当権の実行としての競売の法的効果は、担保権の実行により目的不動産の所有権を競落人に移転することにあるから、遺贈と競売とは権利取得の原因が異なる別個のものである。したがって、本件において、遺贈のみが課税原因となり、競売による競落代金の取得は課税原因とならないとはいえず、本件が二重課税であるとはいえない。

(四) また、控訴人は、単に遺贈を受けたに過ぎない場合と本件のように遺贈を受けた後競売により競売剰余金を取得した場合とで税額が大幅に異なることになるのは、公平課税の原則に反し、不合理かつ非常識であると主張する。しかし、前者のように相続税の対象にしかならない場合と本件のように遺贈を受けたことにより相続税の対象となり、その後の競売がなされたことによって所得税の対象ともなる場合とを同列に論ずることはできず、控訴人の右主張は独自の見解であり到底採用できない。

(五) そして、控訴人は、本件における競売剰余金は、相続税における基礎控除額に達しないのであるから、相続税を課せられるべきではないし、また、右競売剰余金以外に取得した財産はないのであるから、所得税法九条一項一五号の適用により所得税が課されるべきでないと主張する。

しかし、所得税法九条一項により、非課税所得となるのは、控訴人が遺贈を受けた本件土地及び万寿閣に対する出資に関する持分についてであり、これらは相続税の対象となることから所得税の対象から除外されているにすぎない。これに対して、遺贈を受けた後競売によって控訴人が競売剰余金を取得した場合にこれが非課税所得となるわけではないから、右控訴人の主張は失当である。

(六) さらに、控訴人は、仮に本件における課税処分が適法であるとしても、本件競売による売却代金及び利息合計一億三四九〇万七七〇〇円中抵当債権者らに弁済された四九五〇万一三三六円は、債務者である万寿閣、及び亡清十郎に対する求償が不能であるから、所得税法六四条二項の適用により、右四九五〇万一三三六円を譲渡価格から控除して税額が算定されるべきであると主張する。

しかし、亡清十郎の債務のうち一〇分の六は控訴人が相続により継承した債務であるから、そもそも求償の問題が生じないことをさておくとしても、所得税法六四条二項の適用を受けるには、同項に規定されている実体的要件を充足するとともに、同条三項の規定上、同条四項の例外的な場合を除き、同条三項に定める手続的要件(確定申告書に本件特例の適用を受ける旨その他大蔵省令で定める事項を記載)をも併せて充足する必要があるべきところ、同項に規定する確定申告書を提出しなかったことは控訴人の自認するところであるから、本件においては右手続的要件を欠いていることが明らかである。

この点につき、控訴人は、被控訴人の担当職員が本件は非課税であると数回にわたり言明後、相続税を賦課したため、控訴人が右所得税法所定の手続をとらなかったのであり、前記確定申告書の不提出につき、同条四項所定の「やむを得ない事情」が存在する旨主張する。

しかし、本件において控訴人が、平成六年三月一五日、平成五年分の所得税に関し、総所得金額をマイナス二六〇万〇二七一円、納付すべき税額を〇円として、平成七年三月一五日、平成六年分の所得税につき、事業所得の金額を五六三万六五九七円、純損失繰越控除額を二六〇万〇二七一円、納付すべき税額を一九万八四〇〇円として、それぞれ確定申告をしたことに争いがなく、その際、求償不能を理由に同条三項所定の手続をとることに障害があったことをうかがわせる事情を見出し難いばかりでなく、そもそも本件においては相続税の賦課処分がなされていないのであるから、控訴人の主張は前提を欠いており、到底採用できない。」

三  以上によれば、本訴請求は棄却すべきであって、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 喜多村治雄 裁判官 小林崇 裁判官 大沼洋一)

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